ミュンヘンを見る。

Munich
なんか。なんとも言いがたい。これをただの映画として処理してしまっていいものか悩む。ラストの背景にぼわっと浮かぶあれの姿、なんともさびしいというかむなしさがただようあの姿が頭から離れん。

歴史的背景とか、そんなん語れるほど知識も持ち合わせていないし、何より俺はイスラエル人でもパレスチナ人でもない。当然ユダヤの血もアラブの血もたぶん入ってない。だからこの真実についてどうこう言うのはやめとく。あえて映画として、完全なるフィクションとして処理することによってこのレヴューを書こうと思う。じゃないと何もかけない気がする。


なんともありきたりな言葉でレヴューを始めるけれど、やはりスピルバーグはすごい監督だ。

画面からあふれる緊張感とテンポの良さは、これが社会派映画なのかと思えるくらいに娯楽映画の水準を軽く超えたスリルと疲労感を観客に与える。こんなに疲れた映画は久しぶりだ。また、劇中全く時間を感じることもない。あの尺の長さにしてこれはすごいことだ。

若干ネタバレになるけど、中盤あたりで出てくる電話の爆弾のシーンの一連のサスペンスあふれる描写はとんでもなく、最も緊張感に満ち溢れていた。あれだけの緊張感をあふれさせるのは並大抵の力量ではないよ。

また、例によってヤヌス・カミンスキーの映像のキレイなこと。無駄のないカメラワーク、そしてフィルムを少し汚した感じのあるなんとも70年代っぽい映像。うーん、すばらしい。特にカメラーワークは、現在多くの映画監督や撮影監督がうわべだけのかっこよさを求めて無駄にぐるぐるまわしていくなかで、スピルバーグカミンスキーコンビは全く無駄があらず、そしてスマートにその場の状況をテリングしていく。脱帽だ。

そしてスピルバーグはひたすら残酷に・リアルにそれぞれの死を描く。時に家族団らんや暗殺者同士の食事というごく日常的で幸せなシーンと対比させて描いていく。こうすることで死は強烈に人々の印象に残っていく。

プライベートライアンでも聞かれたひたすら乾いていて耳をつんざくような銃声は、そのまま人の心を突き刺す音のようだった。


ジョン・ウィリアムズの音楽は、やはり的確に映画をサポートしていて、サスペンスシーンのキレはさすがであった。細かく刻まれるリズムにかぶさる様々な音は異常な緊張感を生んでいたし、後半部での主人公が見えない敵におびえるシーンでも最大に効果を発揮していた。しかし残念なことにシンドラーのリストプライベート・ライアンに勝るような印象的な主題は用意されていない。それだけが心残りか。

この映画のメッセージは後半に強烈に描かれる。言いたいことがよくわかんなかったとかいうレヴューも見たけれど、おまえはどんだけアホなんだよ、と言いたい。主人公の口から、そしてラストショットに強烈に描かれてる。ギャング・オブ・ニューヨークでスコセッシが見せたそれよりも静かだけれど圧倒的な力を持っているこのミュンヘンのラストショット。あー忘れられん。(スコセッシの場合はあれの直後だったこともあって意図しないケレン味が出ちゃったわけで、そこらへんが少しかわいそうなんだけど。)

何回か出てくるイスラエル人の人質たちの行く末の挟み方もまた印象的で、頭から離れない。


ここまで書いてみて思ったんだけど、やっぱりミュンヘンの全てを俺は語れないと思った。もっかいくらい見に行ってみようかな。疲れるけど。


ミュンヘン
映画:★★★★☆
音楽:★★★★☆
メッセージの強烈さ:★★★★★
疲労感:★★★★★
Over all:★★★★★