Pirates of the Caribbeanをそろえてみて。

Pirates of the Caribbean: At World's End
Pirates of the Caribbean: Dead Man's Chest
Pirates of the Caribbean (Original Soundtrack)




















ついに(とりあえずは)完結なパイレーツ・オブ・カリビアン
映画自体はもはや1の時点で、いや1の音楽を聴いた時点で諦めているので、
もはやこれ以上どうこう言えないけど(1の戦闘シーンの映像演出と音楽演出の悪さに激萎えした)、
音楽については、いろいろと思い入れがある。

ってのもまぁ、作曲がハンス・ジマーだからなんだけどさ。

思えば、今年は僕がハンス・ジマーにのめりこんで、祝10周年。
97年、僕が弱冠中学1年生の時のこと。
ドリームワークスのデヴュー映画である「The Peacemaker」のサントラを買ってしまったことが、
サントラマニアになるキッカケであった。
「The Peacemaker」のかっこよさ、ノリのよさ、その全てが僕にとっては衝撃だったんだ。

The Peacemaker: Original Motion Picture Soundtrack

最初だからっていう思い入れを抜きにしても、
「The Peacemaker」の音楽は、
ハンス・ジマーの一つの極致、ではないかと思っている。
極致、というのはCrimson Tideあたりから始まった
ジェリー・ブラッカイマーとの「爆発」コンビで生み出された、
「一つの形式」としての極致、である。

「一つの形式」とは、「男のハートを熱くする暑苦しいペイトリオティックな音楽」「無駄に大音量」「リズムトラックは基本シンセ」「ストリングスと金管重ねたらこんなかっこよくなっちゃったよ」などなど
特徴をあげればキリがないんだけど、
端的に言えば「ブラッカイマー路線を最大にサポートし、かつその映像に説得力を持たせる音楽」
ということ。

ブラッカイマーの作り出す世界とハンス・ジマーの創り出す世界のマッチングは、
スピルバーグジョン・ウィリアムズ以上のマッチングを見せ、瞬く間に映画界を侵食していった。
映画界でのブラッカイマーのブームは映画音楽界でのジマーのブームを意味していた。
思えば、トレヴァー・ジョーンズまでもがジマーのコピーをしてしまったあたり、
90年代後半は少し狂っていた時代だったのかと言えるかもしれない、なんて。
(そのブームを担っていた最大の一翼がかのマイケル・ベイ。)

で、その極致にいたったのがThe Peacemaker。
なぜ極致かと言えば、ド派手サウンドもここまで来たら、
ただの邪魔だろ、というところまで来ていたから。
例えが悪いかもだけど「バカと天才は紙一重」というか。
そこまでギリギリのラインまで迫ってしまった。
やはり、というか、そこまで来た時点でジマーは反省したのか、どうかは知らないけど、
The Peacemakerの派手路線はその後、しばらく影をひそめることになる。

97年以降途絶えていたジマーの派手路線は彼の弟子に受け継がれつつも、
彼本人からはThe Gladiatorというほんの少しかすったものしか世に出ず、6年の時が経過した。
6年という沈黙を破った作品こそ、このパイレーツ・オブ・カリビアンだった。

そもそもの始まりと言えば、Pirates of the Caribbeanは元々、
Back to the Futureのアラン・シルベストリが担当するはずだった。
ブラッカイマーとシルベストリ・・・?僕は違和感を感じた。二人の世界観はあまりに違いすぎる。
ブラッカイマーは男くさい、massiveで重厚な世界を求めている。
一方でシルベストリの創り出す世界はそれとは真逆の軽快で爽快な世界である。
合うはずがない、と思っていた矢先、公開直前の土壇場で作曲者が交代する。

新しい担当は、かのハンス・ジマーだった。
この時点で映画音楽マニアたちは「やっぱり・・・。」と皆が失望にも似た感覚を覚えていた。
いや、もちろん期待感もあったんだろうけどさ。
というのも当時のジマーはあまりにも駄作を連発していたし、
海賊のイメージ、スワッシュバックリンクで血湧き肉踊る勇壮なアドベンチャーのイメージには、
ジマーというよりもシルベストリの世界の方が明らかに適していた。

そこから、Piratesプロジェクトは迷走を始める。
ハンス・ジマーにクレジットされた音楽はついには
ハンス・ジマークラウス・バデルト」の連名名義になる。
この時点で多くの映画音楽マニア達は不安を感じていた。
だいたいが、音楽の担当変え自体が映画自体が駄作であること、
もしくは製作現場の混乱を示しているのであり、
2度にも渡るクレジットの変更は映画のデキを占うにおいて良い兆候のはずがなかった。

そして最終的にはクラウス・バデルトの単独クレジットとなる。
発売されてCDを見れば裏面には「Over Produced by Hans Zimmer」の文字。
「オーバープロデュースってなんだよwwwww」、と
世界中の映画音楽マニア達は呆れを通り越して笑うしかなかった。
さらに内容を聞いたマニア達は笑いをさらに通り越し、絶句する。

やっぱり、ハンス・ジマーが書いたんじゃないか、これは。

アマゾンのレビューとか見ると、
1作目を未だにクラウス・バデルトが書いたと思い込んでる人がいるけど、
それは大いなる間違いだとここに書いておく。
(だいたいのレビューが2作目のノリの悪さと対比して、バデルトの方が実力あるし、というロジック。)
たしかに数曲はハンス・ジマーの作・編曲ではないのもあるけど、
どう聴いてもWill and Elizabethあたりのアレンジはハンス・ジマーの手によるもの。
なぜならハンス・ジマー以外の彼の弟子達によってこれらの音は出すことのできない音だったから。
(ただ間違いなく1作目のHe's a Pirateは、
クラウス・バデルト、その他弟子達によるものだろうと思う。音が貧弱なので。)

ハンス・ジマーが書いた」1作目はなんとも酷いデキだった。
いや、アルバムだけ聴くなら「なんかアレンジ薄いなぁ。」
「いくらなんでもシンセでごまかしすぎ。」「ちょwww曲によって印象違いすぎwwww」
のような批判(十分?)くらいしか出てこなくて、
曲自体の元気のよさからか、まぁまぁという印象。
(もちろん単なる過去の焼き直しなのは腹立ったけど。
進化というより劣化なのが残念でならなかった。)
何より、The Peacemaker以来の派手路線の回帰を素直に喜んでいた。
しかし映画を見ると、そんな素直な喜びは消えうせる。

なんだこの不釣合いな画面と、音は。

特にバルバロッサ?の船と戦うシーンの一連の楽曲。
勇壮な楽曲が突如出現して、それなりにバトルを盛り上げようとしているのは、
とても理解できるんだけど、いかんせん画面は全然盛り上がらない。
だから音楽だけが突っ走っていて、それに画面が全く追いついていってない、
という最悪の状態が生まれた。

画面と音がつりあわないというのは本当に最悪で、
僕はその空虚な画面に、音楽のよさを全て捨てた監督と、
映像に音を合わせられない作曲家達にただただ苛立ちを覚えるだけだった。
(何より話自体が盛り上がらないから、盛り上がりすぎてる音楽に問題があるんだけどさ。
音楽の方が後付けなんだし。)

そんなこんなで、僕の中でのPiratesの音楽は映画を見た段階で、
あまり聴きたい曲ではなくなってしまった。
(単に僕の最大のお気に入りだったアクションキューが変な使われ方しててブチギレたのもあるんだけど。)


1作目の落胆から2年、ついに2作目が登場。
クレジットは連名からハンス・ジマーの単独となる。
ついに、ついに単独であの世界を表現してくれるのか、と
1作目の落胆をよそに、僕の期待は否が応にも高まる。
ラスト・サムライという傑作を1作目の後に送り出していたのも僕の期待感を加速させていた。

2作目の何よりの改善点は画面と音のマッチングが向上した、ということ。

例えば、最後の心臓の奪い合いのアクションシークエンスの曲をCDだけで聴いたとき、
「なんて落ち着きのない曲だ!!1曲でもっと粘れボケ!!!!!!」と、
まじキレそうになったものだった。
しかし映画を見てみると、映像にそのまま合わせた結果だった、ということがわかる。

思えばハンス・ジマーと言えば緻密に映像のタイミングを計算して、
音楽を合わせるシーンから逆算をしながら音楽を組み立てていく人だった。
その合わせ方と言えば、むしろ「合わせすぎ」で、
そこまで説明しなくてもいいよ、という、いわゆる説明過多とまで言えるレベルだ。

つまり、さっきの落ち着きのなさについて音楽を批判するのは全くのお門違いで、
それをそのままそっくり監督と脚本チームに投げかけるべきであった、ということ。
(この映像的・ストーリー的粘りのなさがあの散漫さを生んでいるわけで、
さらにその散漫さがこの映画の焦点を不明確にし、結果、つまらなくしている。)

音楽的散漫さ(もちろん映像のせいなんだけど)はオープニングの緩さにも影響している。
映画全体に締まりのなさがあるのは、
なんだか始まりからダラダラといつの間にか本編に入ってしまい、
そのままエンディングに流れてしまうことにあるのではないかと、見ている最中から考えてた。
オープニングでウィルの目的がはっきりする、そこでジャックに映像うつる、
で、CD1曲目をカットせずにフルコーラスで大々的に鳴らす。この方がよかった。どう考えても。
そうすれば音楽的に一度最高潮の盛り上がりを迎えられるわけで、
そこで一つの区切りをつけることができ、映画自体にもテンポが生まれる、はずである。
(要は007のオープニングソングだ。007にはっきりとして構成上の区切りが生まれているのは、
毎回のオープニングソングのおかげとも言える。)

2作目の収穫は他にもある。CD2曲目のKrakenだ。
名前どおり、クラーケンの登場シーンにかぶせられてる音楽。
映画では音楽が完全な形で登場することなく、
それが付けられているシーンも効果音がうるさいのでよく聞こえないけれど、
この曲は革命的である、と僕は思う。

何がすごいって、フルオーケストラでロックミュージックのノリを再現してしまったこと。
ここまでリズミカルでハイテンポなオーケストラ曲は今まであっただろうか。
僕はその曲に、とにかくオーケストラの新たな次元の到来を感じてしまった。
この曲だけでもPirates2のCDを買ってよかった、とつくづく思う。

しかし、全体的にと言えば僕が期待するThe Peacemakerのノリのよさはなく、
アクションキューも少なかったため、比較的おとなしめなことについて僕は少し不満だった。
(1作目を最高傑作とする人は、このおとなしめなノリについて不満であることが多い。)
ただ、1作目に比べればまとまりという点で圧倒的に1作目を上回っており、
上記の画面との調和もあわせ、2作目の完成度は1作目よりも高かったと言える。


そして3作目、このAt World's End。
2作目のこともあり、期待感は普通。
ジマーも2作目以来、目だった活躍はしていなかったため、
僕の期待感を煽る要素はなかった。いや、正しく言えば「途中まで」なかった。
しかし僕の期待感を煽る、罪な存在に出会ってしまった。

http://www.soundtrack.net

このサイト。前作の時もそうだったけど、発売前に30秒程度のサンプルをアップしてくれる。
たった30秒の各曲のサンプルは10年前に僕がジマーの曲から感じていた興奮を思い出させてくれるには十分すぎた。

熱い、熱すぎる。

こんなにも僕を奮い立たせてくれたのは、
今回初めて登場するヒロイックなテーマ、である。(映画は未見なのでなんのテーマかは不明)
カッコイイ、かっこよすぎるよ。初めてThe Rockのテーマを聴いたときと似た衝撃だった。
でもなんかどっかで聴いたことあるなぁ、なんて思いながら、
記憶の糸を手繰り寄せていたら・・・。

Stealthの曲と同じじゃねぇかああああああああああああああああああ

でもいいの。かっこいいから。かっこよければきっとなんでもいいんだと思う。うん。
ハンス・ジマーの曲が何かに似ることはよくある話。)


で、発売日を心待ちにし、ついに発売日、手元に届く。
やばい、熱い。これは間違いなく、3部作の中で最高傑作だ。
もちろんこれがいいのは先の熱すぎる(Stealthとそっくりな)楽曲のおかげでもあるんだけど、
それ以上に、今回はオーケストラアレンジに妙に力が入っていて、
そこらへんを個人的に高く評価しているから、でもある。

僕がよく見ている映画音楽サイトによれば、
今回のオーケストレイターはいつもと違う人が混じっていて、
どうやらこの新しい風が3部作最大の完成度を生んだらしい。
よく聞いてみると、いつも以上にストリングスの動きが繊細であり、
全体的に芸が細かい。いつものオーケストラアレンジは大味なんだけど。
(最も酷いときは「おまえ、そんだけの量の楽器に同じ音出させて何が楽しいの?」
というレベルである。)

さらに、前2作からのテーマ、今作のテーマ(メインテーマHoist the Coloursと僕の燃えた曲)、
それぞれの配分、アレンジがいつになく巧い。
3作聴いている人にはいろんなモチーフが出てくるCDの後半の展開はたまらないんじゃなかろうか。
前2作のモチーフがところどころで登場してきてそれがいい具合なノリを生み出している。

そして生粋のハンス・ジマーファンにもたまらない瞬間が・・・!!
最近聞く機会がめっきり減ったジマーお得意の「泣き」メロディーが久々に!!
The Peacemakerの“サラエボ”には及ばないけど、これで奮い立たない人とは友達になれない。
ま、誰か主要メンバーが死ぬんだろ。この曲で。
俺の葬式の車が出発する瞬間(ブーーーーーーーーーーってクラクション鳴らすとき)に、
ぜひこの曲をかけてほしい。これ、遺言ね。別に自殺する予定とかないけど。
(ちなみに喪主挨拶の時はHoist the Coloursのアレンジバージョンでお願いします。)

今回の最大のキューは後半に出てくる、
おそらく最後の戦いのバックにつけられるであろう曲。
10分を超える大作で、そのほとんどがフルパワーで奏でられるまさに音の洪水。
このアクションキューは3作の中で最高に熱い展開であるのは間違いない。
2作目であった煮え切らなさ、1作目のちぐはぐさ・アレンジの薄さなどの問題を全て克服している。
最近のジマーでもベストキューなんじゃないかと思うくらいに、すばらしい。
ただ、The Peacemakerの狂ったような17分間のお祭に負けてるのが残念だけど、
音楽的なまとまりを考えればPirates3の方がいいかもしれない。


統一感も3部作中最高。
3作目のテーマが明確に提示されつつ、
それが何回もアレンジされながら登場するので、確実に心に残る。
そのテーマ自体もわかりやすくてとってもかっこよい曲なので、僕は大満足。

わかりやすくかっこよくて心に残るテーマ、
繊細かつ大胆なオーケストラアレンジ、燃えるアクションキュー・・・
僕がジマーに求める要素を全て満たしつつも、今までにはない進化を見せてくれた今作。
これからのジマーにもっともっと期待したい。


こうして終わったパイレーツ3部作。
まぁどうせ4作目作るんだろうけどさ、
とりあえず終わってみて思うのは、やっぱり、ぼく、ハンス・ジマーが好きです。
好きなだけにいろいろ言いたいことはあるし、
もう少しは成長しろよ、と苦言を呈したいこともある。
でもやっぱり好きなんだ。しょうがない。こればっかりはしょうがないんだ。

ハンス・ジマーなんて、、、と背中を向けた時期もあったけれど、
結局、今、四六時中Pirates3を聴いている僕がいる。
デキ、云々を語ることも大事だけど、
素人の批評なんてのはその9割がただの好みを語っているにすぎない。
Pirates1なんかはデキの良さ、という観点では全く、全く評価に値しない駄作だ。
(2以降は1と世界観をあわせなきゃいけないとかの事情があるので、
駄作の要素はあるけど駄作とは言い切れない。)

ではなぜ、ここまでPiratesの映画・音楽ともども人気がでたか。
結局は、みんなの好みに合致した。それだけのことなんじゃなかろうか。
好き、とデキがいい、は全く別の軸。
ブラッカイマー、ジマーが天才だとすれば、
彼らのすごいところはデキのいいものを作り出せる能力ではなく、
みんなが好きそうなものを作れるところにある。

ということは結局、一般大衆にヒットするものを作る、というのは、
必ずしもデキがいいものを作る必要はない、という結論になってしまうんだろうか。


この大衆という概念を語りだすと、キリがないからこのへんでこの議論はストップ。


そんな思案まで繰り広げられちゃうような、
僕にとってはいろんな意味で思い入れの深い、Piratesトリロジーでしたとさ。

めでたしめでたし。



『Pirates of the Caribbean : The Curse of the Black Pearl』
音楽:★☆☆☆☆
マッチング:Bomb!
個人的好み:★★★☆☆
Over all:★★☆☆☆



『Pirates of the Caribbean : Dead Man's Chest』

音楽:★★★☆☆
マッチング:★★★☆☆
Kraken:★★★★★
Over all:★★★☆☆


『Pirates of the Caribbean : At World's End』
音楽:★★★★★
オーケストレーション:★★★★☆
今後への期待:★★★★★
Over all:★★★★★