早慶戦に見るプレショーの重要性。

早慶戦において最も興味深いこと、それは早稲田と慶應の応援のノリの違いである。

一般的に言うと、早稲田の方がノリがよく、慶應はノリが悪い。
この差はたいてい両校の文化の差だとか、
見に着ている人の層だとかに原因を求められているんだけど、
果たしてそれだけなのだろうか。というかそれだけでこんな差が出るはずがないと考えている。
その差を生じさせているものとは何か。それはプレショーの構成であると考える。

プレショー(pre show)とは、
ショー(show)が始まる前(pre)に行われる簡単な出し物、のことである。
例えばお笑いにおける前説であり、ライブにおける前座であり、セックスにおける前戯である。
つまりプレショーは、場を温め、観客のショー本番への感情移入を促す役割を持つ。

早慶戦におけるプレショーとは試合前に行われる応援合戦である。
応援合戦は、試合中に行われる応援の練習をしたり、
応援指導部(早稲田は応援部)の余興を見たりする。
この応援合戦について両校の比較をすると、大きな違いが浮き彫りになる。

  • 慶應
    -最初の出し物は応援指導部による余興。(今までの6大学野球の戦績を振り返る。)
    -歌を歌うとき、応援の練習をするとき、楽器による伴奏なし。
    -チアも吹奏楽部もいない。
    -チア・吹奏楽部は応援合戦の終盤になってようやく現れる。
    -応援練習もごく一部のもののみ。
  • 早稲田
    -最初から応援練習。
    -吹奏楽全開
    -チアも全開
    -それなりに大声を出せる応援の練習。


これだけの差がある。
これだけかよ、と思われるかもしれないけれど、
現場にいればわかる。これは大きな差を生んでいる。

まず、慶應は一番最初のコンテンツからこけている。
僕が編み出した“ショー構成ヒットの法則”によれば、
一つ目と二つ目は大きく盛り上がるコンテンツを持ってこなければならない。
しかし、彼らは戦績紹介という動きと音のないものから始めてしまう。
これでは場が温まるはずがない。

一方で早稲田は一発目から大きく盛り上がれる応援練習から始める。
吹奏楽やチアも現場にいるので慶應に比べて盛り上がれる要素が揃っている。


また、せっかく歌の練習に入るにも関わらず慶應は楽器の伴奏がない。
それは応援練習に入っても一緒。
さらに応援練習もごく限られたものしかやらない。
ここで多くのパターンの応援練習をやっておくのは非常に大きな意味を持っている。
というのも、ここの間に練習をしておけば、
試合中に皆が戸惑うことなく大声を発し、応援に専念できるからである。
(現場にいればわかるが、どういう応援をしたらいいのか分からない
という戸惑いの空気はかなり現場で蔓延している。)

一方で、早稲田は初っ端から楽器伴奏つきで、多くのパターンの応援の練習をしている。
これも現場にいれば分かることだが、彼らは試合中、戸惑うことなく大声で応援をしている。
これは、試合前に多くのパターンの練習をしていたことが、
功を奏しているとも考えられるのではないか。


これだけを見てみると、場を温める(=ショー構成のよさ)、
応援の戸惑いをなくす(=試合中、盛り上げの妨げになる要素をなくす)という
プレショーの基本原則を慶應はことごとくぶち破っていることがわかる。
つまり、応援指導部(と吹奏楽部とチア)が今の方針で応援合戦を運営する限りは、
早稲田同様、もしくはそれ以上の盛り上がりを得ることは絶対にできないのだ。


このことに本当に慶應が思いついていないのか。そんなに慶應の応援指導部はアホなのか。


しかし、どうも周りの状況を見ている限り、他の大きな要因もありそうだ。


観客の神宮球場への入場整理を行っているのは、
支援会・・・のはずだが、人員が足りないらしく、応援指導部やチアの連中も駆り出されている。
入場整理に人がとられているから応援合戦に人がまわせないのではないか、と考えた。

しかし、しかし、である。早稲田は果たしてチアや応援部が人員整理を行っていないのか?
そんなことはない。慶應と早稲田の運営手法にそう大差があるはずがない。
つまり、チアや応援部が人員整理に駆り出されている可能性は非常に高い。
何がこの差を生んでいるんだ。僕は注意深く早稲田側のベンチと慶應側のベンチを比べてみた。
すると大きな差が目に飛び込んできた。それは人の入りの差である。

慶應がまだまだ入場に手間取っている最中に、
早稲田の方はあっという間に入場を完了していたのだ。
結論から言えば、早稲田は人員整理のオペレーションが巧く機能していることが考えられ、
それのおかげでプレショーである応援合戦に、
チアや応援部の多くを割けるのではないか、ということである。

思えば、慶應の人員整理のオペレーションは最悪である。
列は蛇行する*1わ、パーテーションは用意しないわ・・・。
シーバーやら警備棒を持つだけでも
相当オペレーション効率に差が出てくるはずなのにそれもしない。
おかげで入場にとんでもない時間を要している。


で、つまり。


慶應がなぜ早稲田に比べて盛り上がらないか。


それはプレショーの構成で失敗しているからである。


なぜプレショーの構成で失敗してしまうか。


ショーのセンスがない、
入場オペレーションが悪いからである。


どうだろうね、あながち間違ってはいないと思うんだけど。

今回、よく見ていてプレショーの重要性というものを思い知らされた。
今まで自分のショーでなんとなくプレショーをやっていたけれど、
やっぱりプレショーは絶対に入れるべきなんだな、
それもよく作り込まれたものを、ということに気づいた。


んーやっぱりショーってのは、奥深い。
こんなちょっとのことで客のノリが変わってしまうのだから。

*1:列の蛇行は人に列を列だと認識させづらくなるので、パーテーションなしには絶対にやってはいけない。