Cirque du Soleil 『 Mystere 』

シルクについてはいつか書こうと思いつつも、なかなか自分の中でまとめることができなくてここまできてしまいました。正直言うと、現状でも自分の中では完全にまとまりきっているわけではないのですが、つらつらと今考えていることを書いてみようと思います。

僕がシルクを最初に見たのは、高校生の頃でツアーショーのキダム、でした。記念すべきキダムで僕はシルクにフォーリンラブ、、、な衝撃的な邂逅であればよかったのですが、むしろ逆で僕にとっては拒絶反応しかなかったことを記憶しています。いや、なんていうか、ショー中に僕寝ましたし。(高校の帰りに行ったから眠かったのさ。)当時の僕は非エンターテイメント(=難解で理解しがたい抽象的な世界観をもつ創造物/当時の僕の定義)をものすごく毛嫌いしていたので、拒絶反応も当然と言えば当然か。今から考えてみれば難解で理解し難い抽象的な世界観、なんてフランコ・ドラグーヌの最も得意とするところ、なわけでね。

そして時が過ぎること、約5年。
僕は気づけば、フランコ・ドラグーヌにぞっこんな状態になっていました。

キッカケはといえば、ラスベガスのO、、、と言いたいところですが、Oを初めて見たときはあらゆるエンターテイメントを見まくってた時だったので、かえって衝撃が薄くなってしまっててあまり印象に残りませんでした。(旅行の終盤だったので疲れもピークだった。)ただ、ラスベガスで見たことによって、高校生の頃にあった拒絶反応は全くなくなりました。シルクすげーな、かっけーな、と、純粋に思ってましたので。

実は、僕にとってシルクにハマる原因はフロリダのLa Noubaだったのです。これってけっこうレアケースなんじゃないかと個人的には思ってます。まぁこれにはラスベガスの後に見た東京のZEDで「うーむ、舞台の作り方(=人の配置)が面白いなぁ」と思っていたことが下地というか前フリになっているのですが。(O見たときに気づけよって話ですが、ご存知の方はご存知の通りOは視覚の情報量が異常に多く、また前述のこともあり僕は情報を処理しきれていなかったようです。)で、ちょうど舞台の作り方への関心がピークになっているときに僕はLa Noubaに出会ってしまい、それはもうドンピシャに僕の欲求を満たしてくれるものだったのです。La Noubaってセットにあまり金かけてない一方、腐ってもレジデントなので箱はしっかりしてある。だけに人の動きで如何にこのステージを魅せていくのか、というところに目がいきやすかったのです。

そっからというもの、僕はシルクにどっぷり。いや、それ以上にフランコ・ドラグーヌにどっぷりになってしまいました。

La Noubaを見たのが昨年の夏、それ以来La NoubaのDVDは何回見たことか。何とも表現し難い世界観とステージングの巧みさ、そして何よりあのかっこよさ!!スカしてるかんじがむちゃくちゃかっこいい。というわけでそっからは毎日の通勤にはシルクの音楽が共にあります。(特にBenoit Jutrasが好きです。)

で、シルクブームがやってきた、ということでつい先日ラスベガスまで行っちゃったのです。

===========

今回見たのはMystere 、O、 Ka。と、Le Reve。OとKAは2回目。
これでだいたい、シルクのメインストリームにあるレジデントショーは見たことになるとは思うのですが、結論から言えば、

Mystere = O > La Nouba >>>>>>>>(フランコ・ドラグーヌの偉大さの壁)>>>> ZED >>>KA

です。KAの位置はかなり賛否両論というか異論がありそうですが。

僕にとってMystereがナンバーワンなのは、やはり、Cirque du Soleilという団体がそもそもサーカス集団だ、ということであることに起因しています。決して彼らは演劇集団ではない。言うなれば新しい演出手法を取り入れたサーカス集団であり、サーカス的な手法を取り入れた演劇集団ではないのです。そういう意味でしっかりサーカスを行っているMystere、La Noubaはやはり別格。中でもMystereが一番な理由として、技の難易度が高いだけでなく、最も“サーカスというものをどう魅せるか”というところに苦心していて、そしてそれについてかなりの部分で成功している、ということが挙げられます。

サーカスの技をどう引き立たせるか、それこそがシルクの演出家に課された最も大きな責務のうちの一つなのではないかと思います。
La Noubaを見たときも思ったのですが、技によってはだだっぴろいステージの中でぽつんとしたかんじでやらなければならないこともあるわけで、それを如何に寂しくなく、ショボくなく見せるかというのは技を引き立たせる上で大事なポイントになってきます。Mystereはそれについてセットだけに逃げることなく、セット、人、音楽、照明とステージにあるあらゆる要素を使って技を引き立たせていることに成功している。
僕が数あるシーンの中で最も感銘を受けたのはチャイニーズポール(ZEDでは最も退屈なシーンの一つ)の魅せ方。ステージの中心にはポールがたてられて技の準備が進んでいる中で、ステージの後ろに横一列にずらーっと並んだポールが上から降りてくるというシーン。言っちゃあなんですが、正直、チャイニーズポールはあまり面白い演目ではない。動きも限られているからダイナミックさもないわけで。しかし、だ。Mystereが凄いのは、真ん中で技が進められている間に、後ろの横一列のポールでちょいちょい横一列に整列して技を一緒にやるところ。それだけで、一挙にステージが広がって、真ん中で行われている技にダイナミズムが出てきてしまうから、なんとも不思議なもの。また、真ん中(=引き立たせたい方)で大技をやるときは、ぴたっと後ろの動きが止まるので、その瞬間にステージの緊張感が高まるのです。一瞬にして。これって演出の基本技ではあるのですが、ステージングが巧い人ではないと主役とは関係のないところで人を巧く動かすことなどできないんですよ。
このように演出面が優れてるのみならず、Mystereはショーとしてもすこぶる面白い。技が面白いのはもちろんなのですが、まだCirque du Soleilの評価が定まる前ということもあってか、ショーとして荒削りなところもあると同時に全体に外連味に満ちあふれていて、ごった煮感というか出来る限り最大の力を注ぎ込んで作っちゃいました!どうよ!!みたいな形容し難いパワー、イケイケドンドンな勢いがあります。他のレジデントでは王者たる余裕がショーから感じられるのですが、Mystereには余裕がないんですよ。それ故に他のレジデントにはないパワーがビンビンと伝わってくるのです。このショーはフランコ・ドラグーヌにとってベストの一つだろうし、シルク常連のクリエイターたち、ルック・ラ・フォーチュンやBenoit Jutrasにとってもベストの一つ。Oも素晴らしいですが、Mystereのほとばしる若気の至り感がやっぱり最高です。

コメディがすこぶる面白い(シルクで最も爆笑した。)とか他にもMystereの良いところを挙げていくときりがないのでこのへんでやめますが、それだけMystereはすばらしいショーだと僕は思います。OやKAのせいでシルクのことを「セットがあってなんぼな劇団」的な何か取り違えている人からは「つまらん」的な意見が多いのですが、それは大いなる間違いだし、Mystereの溢れんばかりの魅力、ここでしか得られない魅力を大掛かりなセットがないからとスルーしてしまうのはとてももったいないことだと思いますよ。(そもそもMystereを見ないでシルクのレジデントを語っている人がたまにいますが、何考えてるんだろうと思いますよ。)
個人的な話で恐縮なのですが、就職活動中にフジテレビの(あえて明言しますが)大物プロデューサー(番組名挙げればえー!!となるくらいの)と直接話す機会があって、どういう経緯かは忘れたのですが、たまたまシルクの話になって、「OとKAはすごいよー」みたいな。そのとき僕は見たことなかったので伝え聞いた話として「ショーとしては0、サーカスとしてはMysterらしいですね。」みたいなこと言ったら「Mystereねぇ、、、」みたいな微妙な反応をされた記憶があります。今なら言える、あんた本質が何も見えてないってね。
この話はなぜKAが最低評価なのかというところにもつながるのですが、やはりCirque du Soleilはサーカス集団なんだというところに尽きる。シルクをシルクたらしめるものはサーカスなのです。ZEDの演出家はその本質を見抜いていた一人で、インタビューでこんなことを言っていました。「シルクのショーを全て見たが、一つ気づいたことがある。それは、シルクの目的はストーリーを語ることではないということだ。」そう、ストーリーを語ることも、演出も音楽もセットも、、、サーカス技以外の何かがシルクにとってトッププライオリティであってはならない。あくまで全ては技の引き立て役でしかないんだ、と僕は心から思います。


だから僕はKAが嫌いなのです。セットとストーリーを引いたら、KAには何か残るものがありましょうか。


そして、だからこそMystereがシルクのレジデントで最も優れたショーだと僕は思うのです。


、、と、他にもOとかZEDのこととか書きたいことはたくさんあるのですが、Mystereだけでこんなになってしまったので、続きはまた今度。KAのこともちゃんと書かなくては。