スタートレックを見る。

STAR TREK (2009)
今年1番のデキ。(僕が見た中で。)

J.Jは監督としての才能が特に秀でているというわけでもなく、そして独創的なものを撮れる人でもなく、つまり監督として天才かというと、そうではない、と僕は思います*1。ただ、彼は観客が見たいものが何かを知っている、つまりプロデューサー=仕掛人としては、まごうことなき天才。

冒頭からハイテンションの宇宙戦、既視感ありありの(これ褒め言葉)危機につぐ危機、今まで映画で何度語られてきたか分からない(表面的には)駄目人間のサクセスストーリー、そして性格真反対同士の間に反発しあいながらも徐々に芽生える友情、、、
ハリウッドのおいしいとこだけ抽出してしまったような映画。カレーライスのような嫌いな人ほとんどいねーんじゃないのみたいな料理をドーンと出されてしまったような気分です。序盤〜中盤あたりで僕の好きすぎる展開が山ほど襲ってきて、あまりの嬉しさに涙を浮かべたくらいでしたよ。が、故に中盤以降の息切れと無駄の多い展開(モンスターに襲われるシーン絶対いらねーだろ。)、終盤の引っぱりの弱さが悔やまれるところではある*2のですが、総じて水準以上のデキで満足でした。

スタートレックの音楽といえばゴールドスミス作のテーマ(要はTNGですね。)という僕にとっては、リアルタイムで見てた世代の人たちが鳥肌がたつというラストにはあまりピンとこなかったのですが、音楽のレベルは高く、また、最近の映画にしては珍しく音楽の聴かせどころもしっかり用意してあったので、久々に映画音楽を楽しむことができました。テーマ曲を試聴した際にはあまり好きにはなれなかったんだけど、タイトルコールであんなに高らかと鳴らされてしまって、その時点でノックアウト。その後もことあるごとにメインテーマがいろんな形で繰り返されるので、しっかりと心に残りました。映画館出た後にテーマ曲を口ずさめる映画も最近は少ないですし、こういう作品は今となっては貴重です。惜しむらくは、テーマ曲以外に心に残る曲(バルカン星人のテーマなんて全く面白くない。)がないのと、宇宙の雄大さやカークの心情は感じられるものの、未知の世界への冒険のワクワク感がない、あたりかな。ゴールドスミスのTNGのテーマや、テレビ版のVoygerのテーマなんかは雄大さと未知への好奇心/冒険へのワクワク感が巧みに表現されていて、それはそれは素晴らしいテーマなのですが、それに比べると作曲家としての実力の違いか、はたまた経験の違いか、正直劣っていると思います。ただ、オーケストレーションは非常によかったので、次回、これをどう料理するか、期待しております。

・・・といろいろ良かった要素を挙げてはみましたが、この映画をただの素晴らしい映画から驚異的な映画に変えてしまっているのはこれらだけ、ではないのです。それは、テレビシリーズを下敷きとして生かしながら新しい設定をどうつじつまをあわせて語っていくのか、というところ。「あーーこの手があったか!!!!」と、世界中のテレビ・映画関係者は悔しがっているんじゃないでしょうか。僕も関係者ではないですが、心底やられた、ともはや降参です。この設定を考えだせただけでも賞賛ものだと思います。自分のやりたいようにやりたいし、トレッキー向けに作るとセールスには限界はあるしと思いつつも、30年ほど続くテレビシリーズのファンを怒らせたら元も子もないし、うーん、、、という非常に悩ましいところを、両立させてしまうという完璧な離れ業をやり遂げてしまっているのです。これでファンには「これからはこういう経緯で新しいシリーズが続くからよろしくね」としっかり仁義をきったし、初めての観客には「スタートレックってこういう映画だから。面白いでしょ?」とそしらぬ顔でしっかりと鮮烈な印象と共に新スタートレックを見せた。

考えれば考える程、エイブラムス、やはりプロデューサーとして本当に天才だよ。LOSTはさすがにいい加減にしろと思うけど、こればかりはやられた。僕の負けです、ごめんなさい。

*1:プロデューサーとしての権限がエイブラムスよりトムクルーズの方が強かったであろうM:i:3が良い例。平凡な作品で語るべきところが一切ない映画でした。

*2:考えてみるとやっぱりスターウォーズEP4のデス・スターの戦いは素晴らしいんだよなぁ、、、あの"溝”でひっぱるだけ引っ張った後のハン・ソロの登場とか、レーザー発射準備と平行で描かれる砲撃成功→逃亡の息の詰まる展開とか、、、って考えてみたら赤色物質ことブラックホールがなんだかデス・スターに思えてきた。重要人物の星が破壊されるのが最後の展開への伏線になってたりとか、、、カークは言うなればルークの不良版か?うーん、、、